デジタル化の波が押し寄せる中、製造業でも、従来の技術や知識だけでは競争力を保てない時代になりました。とくに、AIやIoT、データ分析などの新たなスキルが求められ、従業員の能力の再構築が急務となっています。
そこで注目されているのが、単なる研修ではなく、業務の変革を見据えた戦略的な人材育成の取り組み「リスキリング」です。
この記事では、製造業がリスキリングを導入すべき背景やメリット、身につけるべきスキル、導入の具体的な手順や成功のポイントを解説します。自社の生産性と人材力を同時に高めたいと考えている方は、参考にしてください。
目次
ここでは、製造業でリスキリングが必要とされるおもな3つの背景を解説します。
それぞれ見ていきましょう。
近年、IoTやロボット、AIなどの技術が発展し、製造現場も大きく変化しています。これに伴い、デジタル技術を駆使して業務を進化させるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まっています。しかし、多くの企業で専門知識を持つDX人材が不足しているのが現状です。
激化する市場で企業の競争力を高めていくためには、デジタル技術の活用が不可欠といえるでしょう。
近年の製造業は、深刻な人材不足という課題に直面しています。経済産業省によると、製造業の就業者数はこの20年ほどで100万人以上も減少しました。
さらに、現場では従業員の高齢化が進んでおり、若手の就業者が減っています。 そのため、熟練技術者が持つ専門的な知識やノウハウを、次の世代へ引き継ぐことが難しくなっています。
このような状況を乗り越えるためにも、計画的な人材育成が急務となっているのです。
参考|経済産業省「ものづくり白書」
経済産業省は、DX時代に対応できる人材を育てるため「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を通じて、企業の取り組みをサポートしています。
具体的には、スキル習得のための講座受講費用の一部を補助したり、デジタル人材育成のための学習プラットフォームを提供したりと、さまざまな支援策を打ち出しています。
製造業でリスキリングを推進すると、多くのメリットを得られます。ここでは、以下4つのメリットを紹介します。
それぞれ参考にしてください。
リスキリングで従業員がデジタル技術や最新ツールの使い方を学ぶと、現場の自動化や省力化が進みます。これまで人の手による作業ミスが減り、製品の品質も安定しやすくなります。
その結果、企業全体の生産性が向上するだけでなく、働く人の負担も軽くなり、より効率的に仕事を進められるでしょう。
IoTやAIなどの新しい技術を扱える人材が増えると、企業はこれまで取り組めなかった製品やサービスを扱える可能性があります。これにより、新たな事業展開のチャンスが生まれることも。
また、従業員個人にとっても、元々の専門性にデジタルスキルが加わることで、社内でのキャリアアップや、より幅広い分野で活躍できるでしょう。
DX推進にはデジタルスキルを持つ人材が不可欠ですが、そのために専門家を新たに採用すると、採用コストや人件費が高くなります。
しかし、既存の従業員にリスキリングを行うことで、自社内でDXを担う人材を育成できます。これにより、外部から人材を確保する必要がなくなり、人材コストを抑えることが可能です。
リスキリングは、社員がスキルアップする絶好の機会です。自身の成長を実感し、将来のキャリアを主体的に形成できるでしょう。
また、会社から成長の機会が与えられることで、仕事へのモチベーション向上にもつながります。そのため、会社への満足度が高まり、貴重な人材の離職の防止につながるのです。
ここでは、DX推進のおすすめのスキルとして、以下3つを紹介します。
ぜひ習得を検討してください。
自社でシステム開発・改修できるソフトウェアエンジニアリングは重要なスキルです。
たとえば、プログラミングスキルを習得することで自社の業務プロセスを最適化したり、日常のルーティン作業を自動化する仕組みを構築したりと、現場の課題解決に直接つなげられます。
なお、ITスキルに自信がない場合や、より専門的な知見が必要な際には、製造業に特化したソフトウェアベンダーへの相談もおすすめです。外部の専門家の力を借りることで、スムーズなDX化が期待できるでしょう。
参考|新明和ソフトテクノロジ「お問い合わせ」
DX推進にはさまざまなスキルが求められますが、その中でも重要なのが「データ活用スキル」です。
製造業の現場では、生産設備やセンサーから日々大量のデータが生成されています。これらのデータを適切に収集し、分析することで、これまで見えなかった課題の発見が可能です。
たとえば、過去の稼働データから機械の故障を予測して事前にメンテナンスを行ったり、生産効率が落ちている原因を特定して改善策を立てたりすることに役立ちます。
製造工程の最適化や不良品の検出など、AIや機械学習の幅広い活用が進んでいます。これらの技術を理解し、応用できる人材がいると、現場の判断が迅速かつ的確になり、生産性の向上につながります。以下におもな導入例をまとめました。
導入例 | 内容 | 導入による効果 |
---|---|---|
異常検知 | センサーからの稼働データをAIが分析し、故障の兆候を予測 | 突発的な機械停止を防ぎ、保守コストを削減 |
不良品の自動検出 | カメラと画像認識AIで製品の傷や欠陥を判定 | 検査精度の向上と検査人員の省力化 |
需要予測 | 過去の出荷データと外部情報をもとに出荷数を予測 | 過剰在庫や欠品のリスクを回避 |
現場での応用には、すべてをプログラミングできる知識が求められるわけではありません。しかし、構築・運用するには、AIの基本原理や機械学習モデルの仕組みを知ってくことが必要です。
DXを進めるには管理職のリスキリングが欠かせません。現場と経営をつなぐ力を高めるため、以下3つのスキルを紹介します。
管理職の方は参考にしてください。
管理職のマネジメント力がDX推進の土台です。具体的には、以下3つがあげられます。
また、1on1やコーチングで部下の成長を支援し、変化への不安に寄り添うことも重要です。
分析スキルは数値データを収集・整理し、有効な示唆を導き出す力です。製造業では、設備稼働率・歩留まり・生産ラインのボトルネックなど、改善すべき要素が数多く存在します。これらの情報を可視化・分析することで、無駄の削減や品質向上に直結する判断ができるでしょう。
たとえば、BIツールやExcel関数、統計的な思考法などが具体的なスキルにあげられます。感覚に頼らず、論理的かつ客観的に現場の課題を把握することが、DX推進でとくに求められます。
語学スキルは、海外とやり取りを行う際、意思疎通するために不可欠です。英語を中心に、読み書きや会話を通じて情報を正確に理解・発信できる力が求められます。
製造業では、海外工場との連携、輸出入の交渉、現地スタッフとの協業など、さまざまな場面で語学力が活かされます。最新の技術や業界レポートが英語で発信されるケースも多く、情報収集力の面でも差が出るでしょう。
また、翻訳ツールの補助に加え、自ら読み解く力があることで、グローバル市場での対応力が大きく広がります。
リスキリングの進め方を5つの手順に分けて整理します。
進め方に悩んでいる方は、参考にしてみてください。
自社の現状を正確に把握することから始めましょう。従業員一人ひとりが持つスキルを洗い出し、会社が必要とするレベルと比較します。このギャップ分析により、強化すべきスキルが明確になったら、それを埋めるための具体的な教育計画を策定してください。
以下にチェックリストをまとめました。
【スキル棚卸し】
項目 | 確認ポイント |
---|---|
業務と必要スキルの洗い出し | 業務で本当に必要なスキルは何か (例:PLC操作、データの見方、英語) |
スキル項目とレベル定義 | 「できる・少しできる・できない」など 分かりやすい段階にしているか |
ギャップ抽出 | 必要レベルと現状の差はどこか、 何人分不足しているか |
【教育計画づくり】
項目 | 確認ポイント |
---|---|
目標設定(個人/組織) | 「いつまでに何ができるようにするか」を 具体化しているか(KPI含む) |
学習内容の設計 | OJT・短時間講座・eラーニング等を 適切に組み合わせているか |
実務適用の場づくり | 学んだことを試す小さな現場課題や テスト運用を用意しているか |
上記の流れでスキルマップを作成し、優先度の高いスキルから着手すると効果的です。また、学習時間は勤務時間内に確保し、週次や月次で進捗を振り返る仕組みも合わせて設計すると、定着しやすくなります。
個人レベル・組織レベルの両者で「いつまでに何ができるか」を言語化し、測定可能な目標指標(KPI)を設定します。この際、現実的でありながらも、適度な挑戦を含む水準に設定することが重要です。
設定した目標は月ごとの中間目標に分け、無理のない学習スケジュールを組み立てます。各段階での担当者、必要な教材、学習時間を明確にし、週次で進捗を確認・調整する仕組みを整えましょう。
計画を立てたら、実行するための体制づくりが欠かせません。まず、リスキリング推進の責任者と専門チームを決め、現場・人事・ITが連携できる横断的な組織を構築します。
続いて、学習時間の確保と予算を配分し、必要な教材やLMS(学習管理システム)、メンターを整備します。また、スキル習得の評価基準を明確にし、従業員が気軽に相談できる窓口も設定すると、スムーズな推進体制を実現できるでしょう。
学習したスキルを確実に定着させるためには、実務で実践できる場をつくることが大切です。以下の仕組みを整えましょう。
実践機会の創出 | 学習内容に応じた小規模プロジェクトを用意し、チャレンジできる環境を作る |
---|---|
既存業務の中で新しいスキルを試せる場面を意図的に設定する | |
他部署との協働プロジェクトで、学んだスキルを活用する機会を提供する | |
スキル定着のサポート | メンターやコーチによる実務適用時のフォローアップ体制を整備する |
定期的な振り返りミーティングで、うまくいった点と改善点を共有する | |
実践での気づきや学びを記録し、ナレッジとして蓄積する仕組みを作る | |
段階的な責任拡大 | 最初は既存メンバーのサポート役から始め、徐々に主担当へ移行する |
成功体験を積み重ねながら、より高度な業務へステップアップできるよう設計する |
このように、学習と実践を繰り返すサイクルを回すことで、スキルが自然と身についていきます。
リスキリングの成果は、定量的に測定することが重要です。まず、学習KPI(受講・テスト)と業務KPI(不良率・停止時間・リードタイムなど)を定め、月次で見える化しましょう。
次にレビュー面談で振り返り、原因を分析して改善策を決めます。成功事例は社内で積極的に共有し、次期計画に反映させることで、継続的な改善サイクルを回せます。
リスキリングを現場で定着させ、成果につなげるには、進め方のポイントを押さえることが大切です。とくに次の3点を意識すると、無理なく進められます。
それぞれポイントを確認していきましょう。
経営層が明確な方針と数値目標を示し、学習時間と予算を会社として確保します。あわせて評価精度や昇格基準にスキル習得を組み込むことで、学ぶ意義を明確にできます。
また、管理職が率先して学習に取り組み、その目的と各自の役割を丁寧に説明することも重要です。定期的な1on1や進捗確認の場を設け、困りごとは早めに解決できるよう支援体制を整えましょう。
リスキリングは、すぐに結果が出る取り組みではありません。だからこそ、最初から大規模に展開するのではなく、3〜6カ月単位の小さな目標を設定し、着実に成果を積み重ねていくことが大切です。
まず小規模で試し、勤務時間内の学習時間を習慣化し、月次で見直します。社内講師の育成や教材の更新も継続的に行い、無理のないペースで前進させましょう。
すべてを内製化する必要はありません。たとえば、外部のeラーニングや認定講座、学習管理システム(LMS)などを活用すると、最新の内容を素早く学べて教材づくりの手間も抑えられます。
また、ITベンダーとのパートナーシップも有効です。要件整理→カリキュラム設計→パイロット実証→本格展開→効果測定まで専門家の伴走支援を受けることで、確実な成果につなげやすくなるでしょう。
なお、新明和ソフトテクノロジは製造業のIT子会社として、製造業ならではのさまざまなノウハウを培って来ました。製造業ITのパートナーをお探しの方は、新明和ソフトテクノロジにお気軽にご相談ください。
参考|新明和ソフトテクノロジ「お問い合わせ」
現在の製造業は急速なデジタル化と深刻な人手不足という2つの課題に直面しており、リスキリングの重要性がますます高まっています。しかし、最初から完璧を求める必要はありません。
まずは現場のスキル可視化や小規模な学習機会の創出など、できる範囲から始めてみてください。自社に合った形で進めることで、継続的に取り組めます。長期的な視点で人材を育成し、時代に適応した競争力のある組織を目指しましょう。
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